デイジイ東川口店
 
 地域に根付き長く愛されるリテールベーカリーには、常に同じ商品を求めて通い続けるリピーターの存在がある。20年以上愛される「モーンプルンダー」や「モーンクーヘン」などの商品の味の裏には、店が愛用し続ける製パン素材の存在があった。
 
リピーターに支えられた繁盛店
 

「モーンバーム」はクロワッサン生地に「モーンバックマッセ」とクルミを巻き込み、ロールした生地を焼成


「モーンクーヘン」はドイツではとても一般的な焼き菓子

埼玉県川口市を中心に7店舗を展開する「デイジイ」は、地域の人々に長く愛され親しまれ続けてきたリテールベーカリーだ。1962年の川口店の開店とともに創業し、その後西川口店、東川口店などを順次開店、2004年には工場併設の現在の本店も開店している。
 7店のうちで規模の大きい店舗の1つの「デイジイ東川口店」では約200種類のパンと菓子を展開し、毎日約800~1000人ほどの来店がある。倉田博和社長によると、その繁盛の背景には、ずっと長く安定して同店に通い続けてくれる固定客の存在があるという。
 「『デイジイさんでしか食べられない味』『何度も食べたくなる味』を求めて通い続けてくれるお客様が多いのが当店の強みです。本当に感謝しています」(倉田社長)
 その「何度も食べたくなるデイジイさんの味」の代表的な商品に、黒ケシの実ペーストを使った「モーンプルンダー」や「モーンクーヘン」がある。もともとはドイツの代表的な製品だ。これらの製品に使われているのが、「デイジイ」のスタッフらが20年以上愛用し続ける黒ケシの実ペースト「モーンバックマッセ」だ。
 
ロングセラーとなったモーンバックマッセ使用製品
デイジイ東川口店の店内
  同店はドイツ・ミュンヘンの菓子専門学校と提携し、倉田社長は2008年6月に設立した「ドイツパン・菓子の勉強会」の会長も勤めている。国を越えた食文化の積極的な交流や、業界の活性化のため尽力してきた。相互交流の一環として毎年2人ほどドイツからマイスターの研修生を受け入れるなどの活動も行っている。
 同店は、パンと菓子の垣根を作らないことをモットーとした商品開発を実践。店内ではパンのほか、焼き菓子や、洋生菓子も多数販売している。スタッフもパンと洋菓子の両方が製造できる人員を揃え、アイデアを相互交流させやすい形で、技術に磨きをかけている。
 ドイツのパンと菓子に関しては、20年以上前に倉田社長が着目し、同店の商品として取り入れてきた。「モーンプルンダー」「モーンクーヘン」ともドイツの最もポピュラーな製品だ。倉田社長が今から20年以上前にモーンバックマッセを使用したドイツの焼き菓子やパンと出会った頃は、ちょうど大手などとの差別化を考えた店舗展開を目指し、模索している最中だった。
 「色々アンテナをはって食べ歩きする中で出会い、これはおいしいなと思ったんです。自分がおいしいと思ったものをお客様に食べさせてあげたいというのが心情ですから、すぐに商品開発にとりかかりました」(倉田社長)
売り場に陳列された「モーンバーム」
 そして現在でも販売している同店の「モーンプルンダー」「モーンクーヘン」などの商品が完成。「これはおいしい」と自信を持って言える商品だからこそまずは大量に数を揃え、併せて試食もたくさん提供した。思い切ってたくさん出して売る事で、リピーターが自然とつき、これらは同店の主力定番商品として成長。そして発売から20年以上、現在までずっと販売を続けている。
 「現在では『モーンバックマッセ』は、季節商品への活用のほか、8年前に発売した年輪型の焼き菓子『モーンバーム』でも使っています。これも定番で人気の商品となっていますよ。クロワッサンやデニッシュなどのパンの他、様々な洋菓子にも幅広く使え、また味がいいだけではなく、使いやすくスタッフへの指導もしやすい。これからクリスマスの季節を迎えるので『モーンシュトーレン』も出ますね」
 「モーンバックマッセ」との運命的な出会いから20年以上。この素材を倉田社長は今後も使い続けるという。
 
商品開発に様々な可能性
「モーンバックマッセ」の活用効果について
倉田博和社長に聞く
――貴店の「モーンバックマッセ」を使用した商品について教えてください。
倉田 まずは「モーンプルンダー」。ご存知の通りモーンバックマッセとクルミをクロワッサン生地に巻き込んだデニッシュです。そして「モーンクーヘン」は、モーンバックマッセやナッツを練り込んだドイツではとても一般的な焼き菓子です。それから「モーンバーム」は、クロワッサン生地にモーンバックマッセとクルミを練り込んだものを、年輪型にくるくる巻いて、仕上げに砂糖をつけた焼き菓子です。発売から8年がたちますが、いまでは店の主力商品のベスト3に入っています。その他、季節商品のモーンシュトーレンやシフォンケーキの中にも入れたりします。独自のつぶつぶ感が出せるので重宝していますね。
――「モーンバックマッセ」はどのような使い方をするのに適していると思われますか?

厨房で、「モーンバックマッセ」を巻き込んだ商品を成形中の倉田博和社長
倉田 クロワッサンやパイなどサクサクした生地に入れるのに適していると思います。でもスイートロールなどの生地でも問題ないし、個人的にはハード系のパンに合わせるのも面白いのではと思います。ビスケットドーナツなんかにも合いますね。商品開発にはまだ様々な可能性があると思いますから、さらに挑戦を重ねていきたいと思っています。


 
――「モーンバックマッセ」を活用する最大の利点は何だと思いますか?
倉田 やはり安定した固定客がずっとついてくることではないかと思います。「モーンバックマッセ」を使用した商品を出すようになって約20年経ちますが、その間、『この味のこの商品はデイジイさんにしかない』『だからデイジイさんに来るんだ』などと言って、ずっと同じ商品を買い続けてくれるお客様がいるんです。大手スーパーやコンビニには売っていないものをリテールベーカリーは出さないといけないですから、その意味で本当に商品開発は重要です。
 
――今後の「モーンバックマッセ」を使った商品開発で、やってみたいことなどがあればお聞かせ下さい。
倉田 モーンバックマッセを使用したパンや洋菓子は「iba cup」などの世界的な製パンコンテストやシュトーレンのコンテストでも頻繁に登場しています。ドイツの菓子パン・焼き菓子には、なくてはならない素材ですから、日本でもその魅力を伝えていくために、新しい商品の開発にも力を入れていきたいですね。「モーンバックマッセ」をクッキー生地に取り入れたクッキードーナッツなんかも作ってみたいですね。
 

ドイツやオーストリアでパン・洋菓子によく使用される黒ケシの実のペーストです。パイやデニッシュ、シュトーレン等の生地にご使用頂けます。風味豊かなパン、デニッシュ、パイ、シュトーレンやマドレーヌ、フィナンシェなどの材料に広く用いられています。