ピーターパン奏の杜
 「メープルラウンド」の製造効率が格段に上がり、常温に戻す際の生地の品質劣化がなくなった。他の製品の復温にも使用し、店全体のオペレーションが効率化された結果、販売チャンスロスが削減され、収益増に繋がった。
「お客様が喜ぶものを売る」という発想
 
平日でも1日中賑わう店内
千葉県に6店舗を展開するベーカリー「ピーターパン」は、多い店で1日220万円も売り上げる人気ベーカリーだ。
 横手和彦社長は、「パンの価値は、大きく分けて2つあると思っています。おいしく食べられて空腹を満たしてくれる機能的な価値と、買うときや食べるときに、楽しさや豊かさ、癒しを与えてくれる精神的な価値です」と話す。  こうした「パンの価値」を追求するなかで、同ベーカリーがパンづくりのモットーとしてあげていることが、焼きたて、揚げたて、作りたての「3たて」だ。
 習志野市にある「ピーターパン奏の杜」の一番人気は、「コクうまカレーパン」(税込140円)、二番人気は、「メロンパン」(税込140円)。「コクうまカレーパン」は、1日約580個、メロンパンは1日約400個を売り上げる。これらの販売個数は、「3たて」にこだわることによって、生み出すことができた努力の結果だ。
 「私たちは、『パンを売る』というよりも、『お客様が喜ぶものを売る』という発想からスタートしました。そうしたら、お客様が来て下さるようになった、ということなんですね」(横手社長)
看板商品の課題を克服した「ショックメルティー」
入り口正面の平台に陳列している「ショコラノア」(税込194円)にも「ショックメルティー」を活用
 「ピーターパン奏の杜」は、昨年9月に開業した、同ベーカリーの新しい店舗だ。
 「カレーパン」「メロンパン」に次いで、夏場も順調な売上げだったというのが、常に人気上位に入っているラウンド型で焼く菓子パン「メープルラウンド」(税込540円、ハーフ270円)だ。
 「『メープルラウンド』は、10年ほど前から当ベーカリー全店で販売している看板商品です。季節ごとに、抹茶、レモン、チョコレートなども出していて、常連の方が『チョコレートはいつからですか』などと聞いて下さって、当ベーカリーにとって欠かせないアイテムとなっています」(横手社長)
 季節のバラエティーも覚えていて楽しみにしている客がいるほど、人気が定着している「メープルラウンド」。しかし、同商品を「3たて」にこだわって提供するためには、製造にかかる時間を少しでも短くする必要があるなど、常に課題があったという。
 「お客様が求めている商品を、『3たて』にこだわったいい状態で提供するために、焼き上がりまでにかかる時間は、1分でも短くしたいんです」(横手社長)
「メープルラウンド」は、薄い皮としっとりした食感が特徴
8段ある「ショックメルティー」に、「メープルラウンド」は、一度に40本入れることができる
 そこで今回、この課題を克服するべく、「ピーターパン奏の杜」にパン生地急速解凍庫「ショックメルティー」を導入した。同機械を導入することで、「メープルラウンド」の製造効率が格段に上がり、常温に戻す際の生地の品質劣化がなくなったという。また、「メープルラウンド」以外の商品にも、同機械を活用することができているという。その結果、店全体のオペレーションが効率化され、販売チャンスロスが削減され、収益増に繋がっているという。
 
常温に戻す際の生地の劣化を防ぐ
「ショックメルティー」導入の効果について
横手和彦社長に聞く
――ショックメルティーを導入した目的は?
 当ベーカリーには、看板商品の「メープルラウンド」という、大きなラウンド型で焼く菓子パンがあります。この「メープルラウンド」の品質向上と、製造の効率化を図る目的で導入を決めました。「メープルラウンド」は、1日に6~7回焼成し、焼きたてを提供しています。ですから、成形からオーブンに入れるまでにかかる手間と時間をどれだけ省けるかが一番の課題となるのですが、そんな折、共立プラント工業さんから、「ショックメルティー」をご提案いただきました。通常の用途は、冷凍パン生地の急速解凍だそうですが、リタードした生地の扱いにも活用できるんです。
 
――ショックメルティーをどのように活用していますか?
 「メープルラウンド」の生地の仕込みは前日に行い、一晩熟成させます。リタードの温度は、発酵は進ませずにうま味を引き出すマイナス5度C~マイナス3度Cの低温です。一晩低温熟成させた生地は、ホイロに入れる前に常温に戻します。
 この常温に戻す工程で、「ショックメルティー」を使います。操作が簡単で、マニュアル化が可能になるため、熟練した技術がないスタッフにも任せることができますね。技術のあるスタッフも、「ショックメルティー」が確実に生地を管理してくれるので、接客や他の商品にも意識を向けられます。
 
――ショックメルティー導入の効果は?
 「メープルラウンド」は、冷蔵庫から取り出した生地を常温まで上げるのに、今までは、少なくとも1時間30分は要していたのですが、 それが40分で済むようになりました。それだけでなく、季節による時間のブレ幅も大幅に縮小しました。やはり常温で戻すと、夏場と冬場では全然違いますし、日による違いもあります。そうすると、工程のタイムスケジュールが組みづらくなりますし、全体の管理に影響が出てきます。その辺りの問題が、「ショックメルティー」を使うことで解消できたんですね。また、その後のホイロ時間も短縮でき、全体として1時間40分近く早く工程を回すことができるようになりました。時間が大幅に短縮できるということは、販売チャンスロス対策にもつながります。
 そして、時間の短縮だけでなく、品質向上にも役立ちます。「メープルラウンド」の焼成前の生地サイズは、長さが約27センチ、直径が約6センチと大型で、厚みがあります。ですので、常温で戻していく場合は、外側と芯部分の温度差がかなり出ます。夏場は、芯温はまだ上がり切っていないのに、外側は、高温多湿の外気にやられてべたつきが出てしまうこともあります。同じ生地の中で部位によるこうした差が生じてしまうと、焼成してもうまく仕上がりません。これに対して、「ショックメルティー」で温度を上げると、生地全体、また、製品ごとの差もなく、均一に上がります。窯伸びもよくボリュームがしっかり出て、クラストは薄く、中までふんわり、しっとりとした製品に仕上げることができます。
 
――ショックメルティー導入前の成果予測に対しての満足度は?
 満足していますね。導入目的であった、品質向上、製造工程の効率化の両方を満たしてくれていることが実感できています。また、実際店舗に設置してみると、「メープルラウンド」以外の商品にも、活用の幅を広げられることがわかったので、期待以上と言えると思います。
 
――ショックメルティーを導入後、すぐに2台目を導入した理由は?
 最初に「ピーターパン小麦の郷」に入れて、すぐに「ピーターパン奏の杜」に入れましたが、「メープルラウンド」は、全6店舗の看板商品なので、本当はすべての店舗に導入したいと考えています。「ピーターパン奏の杜」は、新しい店舗なので、厨房スペースに空きが確保しやすく、すぐに入れることができました。
 
――ショックメルティー導入後、店舗収益に変化はありましたか?
 「メープルラウンド」の製造回転率が上がり、品質も安定したことで、店舗収益が10%アップしました。また、夏場は、製造量を20%ほど落として調整する商品が多いのですが、「メープルラウンド」は、順調に売り上げをキープしていました。ほかの商品についても、チャンスロス対策や、品質向上に役立っていますので、全体の収益を押し上げる大きな力になっていると思います。